Departure
9月もなかばというのに、秋とは思えない残暑のある日、私達3人はハワイ、カウアイ島へ向けて出発した。滞在したのは島の東側、雨も多く緑の濃淡が奥深く重なり、土地も空気もたっぷり水を含んでいる。思わず深呼吸。からだの中が浄化されていく様だ。
Saimin
私達には島に2軒のお気に入りの食堂があった。1軒は「OKI DINNER」。ロコの通う定食屋さんだ。もう1軒は「HAMURA」。「サイミン」と言うロコフード、エビ出汁のラーメンの様な、そうでない様な…。メニューはそれだけ。他に気が散っていないせいか、何の飾りもないのにただひたすらおいしい。どちらも日系人ファミリーの店で、おばちゃん達が厨房でおしゃべりしながら作業して、でも手は休めない…そんな光景をふと自分と自分の家族に重ねてしまった。そう、実は私、創業75年のお肉屋の3代目にしてDeli担当なのです。笑顔も味付けのひとつなんですね(笑)!
Anahola
 ある日、Anahola Mt.の麓にあるギター工房を訪ねる事になった。車より狭いダートの奥深く、渓流の流れる森の中にクラフトマンMicky Sussmanの家は、人を避ける様にあった。高床式に建てられた家の床下に転がっているカウアイコアの原木を見ながら階段をギシギシとならし工房に案内されると、ホコリっぽく紗がかかった室内には、様々な工具や作りかけのギターたちやその木枠などがある。初めて目にするファクトリーに目がクラクラしてしまった。おがくずだらけのじゅうたんのリビングには、丹念に仕上げられた3本のコアウッドのギターが天井からぶら下がっている。Mickyの許しを得てそのギターを手に取り、彼のクラフトマンシップをリスペクトしながらゆったりとした気持ちでSlack Key Guitarの曲を弾かせて頂いた。熱帯の緑のあいだからさす木漏れ日がほこりっぽい室内にキラキラと反射しながら、私をやさしく包んでくれた。帰り際Mickyが「みかんは好きかい?」と高い木から4コもいで渡してくれた。
Ni'ihau Blues Man
ニイハウ島が沖に見えるある1軒の家の庭で、自家製ベーコンや今朝網にかかったというボラの塩焼きをごちそうになった。さとうきびプランテーションの労働者の住宅がならぶその古い部落は赤土、はげたペンキ、錆びたトタンがどこか懐かしい風景に思えた。近くに住むニイハウ島出身のおじいちゃんがウクレレを手に抜けた歯で唄い出した。潮でしゃがれた声は陽気なのにどこか悲しくて、パラパラ…と後からついて来るウクレレのグルーブにすっかり腰が砕けてしまった。恐るべし、Ni'ihau Blues Man!
Mars & Smiley Moon
 カウアイ最後の夜、この旅で知り合ったルイとフミさんの家に招待された。彼等の友人夫婦も含め軒先きでセッションが始まった。初対面の私達はぎこちない空気の中、探り合いの様に音を出し合った。さて、70'Sロックなど、曲を重ねる毎に彼等のヒッピーなハーモニーに引き込まれ、又私達の唄やギターにも目を閉じて耳を傾けてくれた。そして夜中の1時を過ぎにはOlomanaの大合唱!最初は話の糸口も見つからなかったルイの友人の奥さんと私は気が付くと、子供や仕事の話ですっかり盛り上がっていた。別れ際にはギュッとHugを交わして再会を約束した。音楽でつながる事を初めて肌で感じられた。帰りの車に乗り込むとき見上げた空には星がギッシリひしめいていた。
Ahupua'a ハワイには古代から「Ahupua'a」(アフプアア)という言葉がある。山に降った雨はやがて肥沃な流れとなり、森を育てタロ芋畑を潤し、海へと帰りまた雨となって戻ってくる。その土地の暮らしを豊かにして、また繰り返される自然の営み。与えられた恵みに感謝して自然の摂理に逆らわず、あるがままを受け入れる。そんな自然に対する感謝と謙虚に満ちたAhupua'aの精神は、私にとって大きな衝撃だった。普段気付いているのに見ないふりをして来てしまった、大切な物がそこにはあった。緑と水の豊かなこの島だからこそ、素直に受け入れられたのかもしれない。
Hawaiian Soul
 1周僅か120kmほどのこの島を、5日間で約1200km走った。この3人の旅で私達は撮影と言う目的を越えた、ひとつの同じ空気の中にいた様に思える。ダートをかき分けたアナホラの山道、朝日のビーチ、「Hawaiian Soul」というタイトルのひとつのCDを飽きもせず繰り返しかけ続けた車の中。
 そしてこの2人とカウアイ島から沢山の大切な物を教わった。脇目も振らず変わらずにいる事の尊さ。又、音楽の持つ「Power」=「Mana」の素晴らしさ。土地に住む人達の暮らし、心に触れながら、それを理屈ではなく肌で感じる事ができた。きっと2人がいてくれなかったら決して気付く事なく終わってしまっただろう。
 どこにいても自分の中にいつも「Ahupua'a」=「Hawaiian Soul」を忘れずに持っていたい。そしてまた疲れて汚れてしまったら、深呼吸をしに島に帰ろう。もちろんあのCDを持って。
Makalani
model & essay 川崎 久美子 KUMIKO KAWASAKI